こんにちは、アガリスクエンターテイメント『その企画、共謀につき』の公開稽古記録係その1、中村です。
今回は第一回公開稽古の後半戦、作演出の冨坂友の企画に、キャスト、スタッフ、共謀者が質問をぶつけあった質疑応答タイムの様子をお伝えいたします。
〜前回までのあらすじ〜
アガリスクエンターテイメント(以下、アガリスク)の最新公演『その企画、共謀につき』は、作演出の冨坂友が思いついた三つの企画のうち、キャスト・スタッフ共に、どれを選び、どう作り上げていくかを、共謀者(共謀券・無限共謀券というチケットを買ったお客様)たちを中心に赤裸々に公開していく、ガチンコな企画公演である…。
冨坂によって提出された企画①『友人が死んだ(仮)』、②『信玄が死んだ(仮)』、③『パズルとか伏線とか(仮)』に対し、キャストやスタッフがそれぞれの思惑から意見をぶつけ合った…。
特に、戦国時代という特殊な設定を持つ②、骨組みも何も見えない③には多くの意見が投げかけられた。そして、ひとまずの話し合いを終えた中、参考のために共謀者を交えて行った多数決にて、
①…4票 ②…10票 ③…17票
と、大差をつけて、③が票を得る、という結果に、多数決で結果を決める訳ではないにしても、驚いている一同であった…。
公開会議の第二部として、質疑応答が行われました。
その争点は、前半で意見が多く集まった②『信玄が死んだ(仮)』(以下、『信玄』)③『パズルとか伏線とか(仮)』(以下、『パズル』)のどちらを選ぶのか、ということを軸にしながら、
「今後のアガリスクとして、どんな公演を打てば良いのか」
「今回の企画として、どのような内容にするべきか」
「これまでの内容と、どのように差別化していくか」
「今回の条件(日程や劇場の大きさ、出演役者の人数など)に照らし合わせて、何がふさわしいか」
「『パズル』の枠組みを細かく設定していくべきではないか」
など様々なレベルの問題が扱われました。
全ての情報を提示された順番に書くと、一時間の長い台本になる為、争点をまとめて書かせていただきました。
◯『信玄』についての問答
『七人の語らい/ワイフ・ゴーズ・オン』(以下、『七人ワイフ』)を作ってからの作品製作について。
沈→『七人ワイフ』というシチュエーションコメディを完全に皮肉る作品(ここで見られます)を作った上で、今更嘘つきながら誤魔化すという作品の作り方が出来るのか?
という質問に対し、
冨坂→『七人ワイフ』はあくまで「会議とシチュエーションコメディをつなげたい」という目論見があり、それをメタフィクションにすることでつなげたのが、『7人ワイフ』であること、その二つがお話として有機的に結びつくのが『信玄』である、と捉えていて、違和感はない。
ということを示しました。
アガリスクの現状をどう示すのか?
冨坂さんは、『友達』や『信玄』がどちらも「死んだ」という事をアイディアの起点にしている事の理由を説明しました。
まず、ポイントとして、アガリスクエンターテイメントの現状をうまくすくい上げたいと思ったということ。そこで、これまで初期から出演していた塩原俊之さんが休団した、という状況自体を何かきちんと作品に反映できないか、という考えがあったそうです。
『信玄』でいえば、「御館様(武田信玄)がいなくなる」というのと自然と重ね合わせて見てくれれば、劇中の状況の大変さと、今の劇団の状況がリンクするのではないかということでした。
しかし、
辻本(空間設計)→それだと「湿っぽくしたくない」という事とはブレてしまうのではないか。
という指摘に、
津和野→湿っぽい部分を中盤でやりきれば、「湿っぽくしたくない」問題も解消した上で、今の状況をこれからどうやっていくか、が示せる。
と返し、『信玄』が狙っている事、どういう展開になっていくのかが見えやすくなってきました。それに加えて、
冨坂→武田勝頼が信玄の後を継いだ後に、信玄が落とせなかった城を落としたりしているけれど、歴史的にあまり光っていない。親父と比べられて困っている、という状況で、似ているから例えば、「武田信玄のふりをしろ」っていうネタが面白いかな、と思った。
と、あらすじの流れも具体が見えてきました。
しかし、一方で、舞台としてのディテールをどうするか、という問題が浮上してきましたが、そこに対しては、各団員の知識や経験により、ディテールを抽象化した時代劇の例(手塚治虫の『火の鳥乱世編』における電話の登場や、つかこうへい『幕末純情伝』でのジャージ衣装など。また、五反田団のワークショップにて現代的に桃太郎を語る為に川の流れや桃の重さまで全部決めていったという劇団員の経験)が挙げられ、その問題も解決できるのではないか、という事でまとまっていきました。
よって、『信玄』については、女性キャスト5人の参加が難しい、などの問題は抱えつつ、概ねの問題については解決、もしくはその糸口は揃っているように見えました。
◯『パズル』についての問答
根本的な問題⑴「パズル」や「伏線」に対する認識の差
矢吹・津和野→『パズル』やお話になるのか?お話の作り方はどうするのか?
という質問が投げられ、
冨坂→お話になるが、お話から決めずに、システムから考えることになると思う。
と返した事から、『パズル』のシステムをどのように作ればよいのか、また、その事から『パズル』の企画自体が持っている矛盾が見えてきました。
まず、冨坂さんはシステムの作り方について、『七人ワイフ』を例にとりながら話しました。『七人ワイフ』では、中心となる『ワイフ・ゴーズ・オン』というベタなシチュエーションコメディ劇を作って、それに突っ込んでいく、という構成にしたけれど、今回の場合は、冨坂自身が気になっている「パズル」的構成の作品を見つけて研究すること、それからその構造を研究してサンプリングすることが必要となるだろうと考えているようです。
ここまで話した時点で、淺越さんから重要な指摘が行われました。
淺越→パズルとか伏線とかについては、「それが好きな人」と「疑っている人」がいる。そのため、その認識が共通していないと誤差があるのではないか?
ということです。その質問を受けて、前回の第一回投票にて、『パズル』を選択した共謀者(「共謀券」「無限共謀券」を購入し、「公開稽古」に参加しているお客様)とキャスト・スタッフに、それらに対する認識を聞きました。
「パズルや伏線ものを好きなのか疑っているか?投票(『パズル』を選んだスタッフ・キャスト・共謀者17人による)」
好きな人…10名
嫌いな人…6名
(1人投票せず)
これだけの認識の差がありました。
これを受けて、淺越さんは、『七人ワイフ』はあくまで「シチュエーションコメディ」という大きなジャンルを取り扱い、またそこについて、ある種ベタベタのシチュエーションコメディは面白くないのではないか?という共通認識が観客との間に取れているから、それをメタに皮肉るカタルシスがあったことを指摘します。
しかし、
パズルや伏線回収ものは、一つの明確なジャンルではない為、そのカタルシスが得難いこと、
加えて、今投票をとったように、パズルに対する印象がずれている上に、「パズルなどを好きな人」の方が多いことから、好きなものにツッコまれるという構造になるため、『七人ワイフ』のように素直に違和感を共有出来る可能性が低い、という事が指摘されました。
根本的な問題⑵ツッコミを入れる対象は何か?
また、上の議論から続けて、
淺越→パズルはジャンルではない事から、「あるある」が存在しづらく、その「あるある」を自分たちで作らなければならないが、それに対して自分たちで突っ込んでいく事になってしまう。
という懸念を提示しました。その懸念に加えるようにして、津和野さんが、
津和野→『七人ワイフ』は、シチュエーションコメディというジャンルそのものにツッコミをいれていたが、浅越が指摘したように、『パズル』はジャンルそのものではなく、個々のモノに対するツッコミになっていく。その場合、「その伏線回収は下手だよ」という指摘になってしまう可能性がある。その為に、「下手な伏線回収劇」を『七人ワイフ』の劇中劇のように作る事になったら、それはマッチポンプである。
という指摘を行いました。
ただ、それに対し、
熊谷・辻本(空間設計)→うまくて、「おー」と言えるけれど、笑えるもの=コメディではない、という事を指摘したいのではなかったか。
という意見があり、
これらをきっかけに、『パズル』が目指しているのは、
「パズル的、伏線回収的に、うまく言っていて関心するが、笑えるものではない、というようなコメディに対する指摘」
になる事が明確になってきました。
一方で、
『パズル』は、『七人ワイフ』のように、シチュエーションコメディと会議モノをくっつけたい、という演劇的な狙いで作った、というよりも、思想が勝っているため、
極論としては、冨坂さんが研究してパズル論のレポートを書けばいいだけの話ではないか?という意見が出たところで、
淺越→『七人ワイフ』は何がよかったかというと、「今更俺らがこれをどのツラ下げてツッコむんだよ」という半ば自分たちがやってきた事と心中したところだったと思う。
と指摘しました。
『七人ワイフ』の派生にならないためには?
上までの議論を経て、
冨坂→自分たちがやってきた事で、パズルに近い物でいうと「勘違いネタ」だと思うんだけど、自分たちもそこならば経験があるし、ツッコむとしたら、そこになっていくんじゃないか。
と発言があり、キャスト・スタッフ一同、少し「見えた」感覚を得たように見えました。それから、具体例をあげつつ、アイディアがまとまりかけたところに、
熊谷→それって結局、『七人ワイフ』でやった事の焼き直しにならないか?
という指摘がされました。
確かに、上までの議論を改めて考えてみると、どこかで「『七人ワイフ』ではこうだった〜」という前提が含まれていたように思います。
冨坂さんはそれに対し、
冨坂→掘ってみたところで、『七人ワイフ』の派生パターンになるという事は有り得ると思う。
と正直に返答し、再び『パズル』に暗雲が差し込めたところで、「私も質問があるんですが…」と、この日初めて、共謀者の方が手をあげました……。
「『その企画、共謀につき』とネタバレ」問題
共謀者A→パズルなどの要素は興味があり、面白いと思うのですが、公開稽古を通して、そのネタや伏線が全て見えてしまうと、当日の公演では面白さが激減してしまうのではないでしょうか?「次回公演」ならばともかく、今回過程をできる限り公開するという上では、通常のスタイルの公演の方がよいのではないでしょうか。
という指摘でした。
その瞬間、劇団一同から「ざわ…」という効果音が聞こえました。
今回の公演は、この「企画する瞬間から作る段階までを出来る限り公開していく」という企画からそもそも始まっています。よって、ある程度のネタバレはどうしても出てしまいます。しかし、確かにネタバレをした事によって、楽しみが大幅に減ってしまいます。
それならば、既に『パズル』は企画倒れなのでしょうか?
しかし、その意見を受けて、冨坂さんや淺越さんがを中心にしながら、
勘違いネタをどうやって積み立てるか、どうしたら効率よく最速で作れるのか、という試行錯誤自体が面白いのではないか、と『パズル』の方向性を更にに絞りつつ、共謀者による指摘を活かして、
○何度も勘違いネタを繰り返し、一つ一つのすれ違いがレイヤーとして組み合わさって膨らんでいくような構成ができるのではないか。
となりました。また、これについては、別の共謀者の方から、
共謀者B→時系列チャートをいじる形だと「縦」の話だけれど、そうではなくて、レイヤーだと「横」の話になっていくのではないか。どちらなのか。
という指摘を受けて、冨坂さんは「横」の形になる事を予定していると回答し、
冨坂→レイヤーを重ねていくことで、本番の公演がまるでネタ作りを作っているような形になっていく、
と思考を進め、
○『7人ワイフ』の構成を踏まえた形になっても、120分の長いネタ作りの形を見せる公演だからこそたどり着く境地があるのではないか。
とメリットが見え始めるところまで、アイディアが固まっていきました。
最後に決とってみる
以上の事まで話し合った時点で、会議の終了時間となり、最後にキャスト・スタッフ・共謀者による一票ずつの投票が行われました。
「第2回 会議参加者(キャスト・スタッフ・共謀者)による投票結果」
①『友達が死んだ(仮)』…1票
②『信玄が死んだ(仮)』…9票
③『パズルとか伏線とか(仮)』…17票
結局③が数の上では大勝するという結果になりました。
『パズル』については、大枠から細部まで決めていく為に会議に使った時間が長い分、参加者の愛着が強いようにも見えました。
最後に、冨坂さんより、これらの結果を参考にしつつ、『信玄』か『パズル』のどちらかにすること、それについては次回の公開稽古日である、7/20までに結論を出す事が発表されました。
7/20には、選んだ企画の具体についてと公演タイトルの正式決定が行われる予定だそうです。
2時間の短いようで濃密な、(ちなみに書き起こした原稿は優に1万字を超えていました)会議を終えて、
『その企画、共謀につき』を考え、この会議を起こした冨坂さん自身が「自分は甘えん坊脚本家」だとぼやくと、
劇団員一同が、「傑作書かないとマジでやばいぞ」とツッコみ、会議はお開きとなりました。
以上、7/4に行われた公開稽古第1回の模様でした。
長い会議の様子を出来る限り伝えるために、長い文章になってしまい申し訳ございません。
今後も稽古の様子は「創作日誌」ページ内にて、報告されていきます。
また、本来の面白さである、発言が影響しあう姿や、咄嗟の発言が会議で重要なものとして立ち上がる瞬間などは、どうしてもその場で味わうしかないものだと思います。
現在も『その企画、共謀につき』の公開稽古に参加できる「共謀券」「無限共謀券」は販売中ですので、興味を持たれた方は是非、次回公開稽古(7/20)までにお申し込みください!
それでは、現場から異常な現場から以上、公開稽古報告でした。
次回も何卒!
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